２０２３年が幕を明けた。いわゆる「２０２５年問題」まであと２年。粉骨砕身で築き上げてきた技術と信頼を守るために、後継者不在の中小企業経営者が選択すべき最善の決断とは――。ＲＣホールディングス㈱によって実現した買い手と売り手の双方の未来を切り拓くＭ＆Ａの実例と経営陣の証言から、そのヒントに迫る。

　ＲＣホールディングスを率いる上野翼会長が理研アルマイト工業㈱の社長に就任したのは18年12月。飛行機やロケット、人工衛星など航空宇宙分野のアルマイト表面処理で発揮される比類なき技術力に触れ、日本のモノづくりの魅力と可能性に注目してきた。その可能性を伸ばす、Ｍ＆Ａという〝仲間づくり〟を構想する中で最初に招き入れたのが関東化学工業㈱だ。

　航空機用防除雪氷液で国内トップクラスのシェアを誇る関東化学工業は、業務用洗剤などの粉体製品や自社ブランド製品として金属表面の保護被膜「シールピール」を製造。同社の常務取締役でもあるＲＣホールディングスの井手口雅史取締役は、Ｍ＆Ａが70年近い業歴の老舗企業の体質を変えたと振り返る。

「比較的市場シェアが高い商材を持っていることで甘えがあった。今は売上でグループを牽引する企業として、どこに投資すれば効率的に事業が発展するのかを考え、新しい事業分野への参入も目指しています」

　さらに、上野会長は「日本の技術を集結し、世界へ」というミッションを掲げてＲＣホールディングスを22年１月に設立。６月には、精密小型歯車や精密ねじ、航空機部品の製造で70年の業歴を誇る㈱都精機と事業承継型Ｍ＆Ａが成立した。

　創業者の孫にあたる兄弟２人が力を合わせて30年間以上経営を担ってきた都精機だが、気付けば兄弟ともに60歳を超え、２人合わせて５人の子どもがいるものの会社を継ごうとする気配がない。大切な取引先と社員、その家族のために「どうしたら会社を存続させられるのか」を考え抜いた末、決断したのがＭ＆Ａだった。
現在はＲＣホールディングスの顧問を務める矢都木透・元常務取締役は、いくつかオファーを受けた中でも上野会長の若さと能力、伸びしろに魅力を感じたという。

　また、Ｍ＆Ａ以前の都精機には「成長」というモチベーションが希薄だったと話す矢都木顧問は、社員たちの顕著な変化に目を細める。
「数字への意識が一番大きく変わりました。グループとして目指す方向性が示されているからでしょう。今まで以上にレベルの高い製品を作るというモチベーションが社員を成長させてくれると信じています」

　入社以来、理研アルマイト工業の製造部門を牽引してきた堀切敏朗常務取締役は、これから３社が生み出すであろうシナジー効果に期待を寄せる。

「若い人を積極的に取り立てる活発な社風が育ち、営業部門は連携して動き始めています。事業の幅が広がれば技術面でのリンクも進んでいくでしょう」

　グループ３社がそれぞれの個性を発揮しながら高め合う中で経営数値を取りまとめ、経理全般を統括するのが関東化学工業の古藤毅取締役だ。

「各社とも売上の数字に対するモチベーションが上がった。３社がオーバーラップすればグループ内の最大効率化を図れる部分が必ずあり、もっと筋肉質になれる。今後もＭ＆Ａを進めていく中で〝昭和に設立した会社〟が生き残り、現代に合った経営体質に変わるお手伝いをしていきます」

　さらに、経営陣と現場の社員との橋渡し役として重要な役割を任されているのが渡部敬祐監査役。上野会長とはバスケットボールを通じて学生時代から旧知の仲だ。

「人間関係上のトラブルなど、現場でコミュニケーションが上手くいかないと数字に表れる。課題を成長の糧として、シナジーを作ることが私の仕事です」
　渡部監査役は「最近は毎月の経営会議でもアグレッシブな意見が増えてきた」と、社員の成長に手応えを口にする。

　最後に、２件の〝仲間づくり〟を成功に導いた牧泰亮取締役にＲＣホールディングスが進めるＭ＆Ａの意義と戦略について聞いた。

「事業やサービスのラインナップが増えるだけでなく、挑戦する意欲が高まることがＭ＆Ａのメリット。そして何より、雇用を創出することが私たち経営陣の役目です。日本の財産である製造技術に投資して、一緒にグループを大きくすることで産業を支えるような存在になりたいですね」

　日本の技術力を世界に発信するために「技術の結集」を進めるＲＣホールディングスは社員たちの生活を守り、幸せと成長を実感できる企業集団として新たな〝仲間〟を探し続ける。

【会社データ】
ＲＣホールディングス株式会社
〒１００―００１５　東京都千代田区丸の内3-4-2　新日石ビル９Ｆ
☎０３―３２２１―１８６１
設立＝２０２２年１月
資本金＝６０００万円
従業員数＝１９３名（グループ連結）
http://www.rcholdings.co.jp