2020年04月07日
サンデー毎日「会社の流儀」掲載
船舶緊急修繕のエキスパートとして100周年
自社の修繕基地開設に向けて社内改革推進
横浜工作所
二宮 一也 社長
2020年04月07日
サンデー毎日「会社の流儀」掲載
横浜工作所
二宮 一也 社長
輸出入量における海上輸送の割合が実に99・6㌫(財務省貿易統計・国土交通省海事局換算)にものぼる「島国」日本にとって、船舶は命ともいえる物流手段。その命を守る船舶修理・修繕のエキスパートとして、安全安心な貿易を支え続ける株式会社横浜工作所が今年6月2日に創業100周年を迎える。
「故障した船を素早く直して長持ちさせなければ日本経済にとっても大打撃です。しかし、日本の主要な港である東京湾内で緊急修繕に対応できる場所や設備は非常に少なく、私たちが先頭に立って果たしてきた役割は大きいと思います」
と話す二宮一也社長は1992年に水産大学校機関学科を卒業。2007年から同社に中途入社し、常務取締役工務部長を経て昨年7月に社長に就任した。
100年前、外国船の修理を主業務として創業した同社。関東大震災や第二次世界大戦の空襲によって本社・工場が焼失するなど、苦難の歴史も乗り越えながら顧客が抱える難題をチーム一丸となって解決し、「YEW(横浜工作所)」スピリッツを継承してきた。
「独立系企業として無借金経営を維持し、『100年企業』を迎えられる要因は、先輩方の功績と協力会社との間に築いたネットワークが大きいと思います」
と二宮社長が話すように、堅実経営によって安定した事業基盤を築き上げてきた同社。現在、最大で年間700隻の修繕業務を手掛ける中でも、圧倒的な案件数を誇るのが緊急修繕だ。
「関東に船を陸揚げする十分な設備を備えた造船所が少ない上、年間スケジュールに沿って造船や修理を行う大手では緊急対応が難しい。また、故障している箇所を探ることから始めなければならないため、手間もかかります」(二宮社長)
本社に擁する自社船台だけでなく、要請を受ければ北海道から九州まで、いつでも全国の錨地に駆けつける。さらに高まる緊急修繕の需要を掴むため、二宮社長が新たに掲げる目標が「修繕基地」の開設だ。
「『100年企業』として、この程度の会社ではいけない。少しずつ業績を上げて体力を培えば修繕基地建立のチャンスはある気がします。さらに安定基盤へと導くために躊躇している時間はありません」
と、修繕基地開設への意気込みを語る二宮社長は就任前から声を上げ、全員参加型の経営を目指して社内の大改革を推進してきた。
まず着手したのが、5年前から「実験している」という清掃だ。社内や構内の掃除と整理整頓を徹底。二宮社長は清潔な環境と気持ちの良い挨拶、事故の確率を極限まで下げる安全への高い意識がなければ業績向上は果たせないと考える。
「始めは理解できなくても、やってみればわかる。利益が出れば社員に還元し、『財布の中身が増える』ことを一人ひとりが実感できるのであれば、社訓などは必要ありません」(二宮社長)
一昨年11月には、新たに取得したビルへと本社を移転。二宮社長自ら机や椅子を選び、レイアウトも考えて建屋一棟を全面改装した新社屋は社長室を撤廃し、風通しの良い社内環境とスムーズな情報共有を実現している。また、会議室などには二宮社長が描いた絵画も飾られている。
移転前の建屋は健康推進室(ジム)の開設や工具室として利用し、整理整頓された空間は探し物に費やす時間を大幅に短縮。同建屋内にプロジェクトを立ち上げ、自社で油圧ホースを製作するなど、モノづくりを通じて付加価値を高める業務もスタートした。
また、多数のセクションが存在していた社内の課を廃止。仕事量や就労時間の均等化を図るとともに、職位や部門にとらわれずに全社一丸で業務に向かう体制を作ることで従来以上の対応の早さを可能にした。女性事務員が乗船し、海上試運転を体験するなど、垣根を越えた取り組みは他業務への理解を深めている。
「上司が作業着を着て、率先垂範することが大事。私の行動を密かに見てきたのか、今いる社員たちは最近、一人ひとりが変化を実感し、フットワークが軽くなってきました」(二宮社長)
現在、二宮社長自身が考案中の作業着は、普段着として使用しても違和感がないほどのデザイン性を追求している。若い社員たちがモチベーション高く働ける環境を整えながら、二宮社長が自ら資料を作って企業説明会を回るなど、新卒の採用にも力を入れる。
「中小企業としては英語使用率が高いことなど、自社の強みを分析することは採用活動でも役立てられます。船舶系だけでなく、一般の高校や大学からも安定的に採用できるシステムを構築できるように動いているところです」(二宮社長)
船舶修理のパイオニアとして磨き上げてきたノウハウを生かし、港や岸壁に接岸している船舶に車輌で出向いて修繕作業を行う「船舶沖修理」や「構内ドック修繕」だけでなく、「陸上プラント整備修理」「部品・機械製作加工」を加えた4部門で事業を構成する同社。現在50歳の二宮社長は、この4本柱をさらに強化すべく、創業100周年をスタートラインと位置づける。
「いずれ皆死んで灰になる。歴史上で私たちが生きている時間は一瞬です。皆が仲良く、安心して生活しなければ勿体ない。そのためにも私を含め、40代後半以上の社員がやるべきことは次世代へのレールを敷くこと。今からスタートです」
と語る二宮社長は固定概念に縛られず、ときには〝変化球〟も駆使しながら社員たちとコミュニケーションを図るという。意外性を含んだ改革で壮大な夢の実現に向けて舵を切る。
【会社データ】
本社=神奈川県横浜市鶴見区生麦2―3―29
℡=045―503―5111
創業=1920年6月
資本金=5000万円
社員数=60名
売上高=22億円
事業内容=船舶沖修理、構内ドック修繕、陸上プラント整備修理、部品・機械製作加工など
https://www.yew.co.jp
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