城北化学工業/大田 友昭 社長

2017年09月28日

週刊文春「ザ・カンパニー」掲載

激動の時代に勝機を掴む経営戦略と哲学
「直観」で突き進む高機能化学添加剤メーカー

城北化学工業

大田 友昭 社長

“その時”は突然訪れた――。21世紀最初の元旦に父君が心不全で急逝し、城北化学工業株式会社の大田友昭社長は入社して僅か1年、36歳という若さで事業を継承した。同年9月の世界同時多発テロに始まり、ITバブルの崩壊やリーマン・ショック、そして東日本大震災と続く激動の15年間を独自の哲学と「直観」によって乗り越えてきた。

「試行錯誤を繰り返しながら、自分の身に起こる事には全て意味があると捉え、それを『直観』で把握するという方法論を確立しました。経営の現場で予測不能な事態が起きても、自分の『直観』だけを信じて只々前に進む。父からは経営について何も教わっていませんが、今思えば、それが良かったのかもしれません」
 と大田社長。自らの性格を「激動が好き」と評すように、数多の苦難に遭遇しても常に前進を続けてきた。

1957年に創業した同社は、素材の変質を防ぐためにプラスチックや潤滑油の添加剤などに用いる亜リン酸エステルの専業メーカー。日本ではパイオニア的な存在として独自の地位を確立し、製品群の数は世界トップクラスを誇る。同社が取り扱う合成樹脂製添加剤の用途は車や衣料、パソコンなど、私たちの生活に欠かせないものばかりだ。 創業から60年近く蓄積する技術力を新たな分野に生かし、近年は電子材料関連や医農薬の中間体など着実に事業領域を広げ、受託製造や研究開発も行っている同社。最大の特徴は、高付加価値の製品を生む「多品種小ロット生産」である。
「あらゆる産業に関わり、最終製品を『これが無ければ作れない』ものを作り続けています。需要の変化に素早く対応でき、設備を他の製品に転用しやすいことも多品種小ロットの大きなメリットです」(大田社長)

また、「ジャスト・イン・タイム」がモノづくりの主流となる一方、同社は敢えて多くの在庫を保有。いかなる時でも出荷できる体制が不測の事態に備えたリスクヘッジに繋がる。これも大田社長が掲げる経営戦略の一つ。実際、東日本大震災で福島県いわき市の工場が大きなダメージを受け、約2カ月間生産が停止した際も、在庫の製品を出荷することで取引先への欠品を最小限に抑えられたという。

この在庫戦略のように大田社長が時代の流れに惑わされず、常にその先を行く経営を実践できる背景には長い海外生活で得た貴重な経験と考察がある。米国のサザンメソジスト大学に進学し、経営学修士(MBA)を取得。同窓会では代表の一人に名を連ねる大田社長には外国人の友人も多い。
「メディアの報道に踊らされることなく、友人との人脈でリアルな情報として世界情勢を知ることができます。日本という国を外から見ることができた経験も、私の経営スタイルに生かされています」(大田社長)

大手外資系企業にも勤務し、合理的な経営や風土を体感してきた大田社長だが、日本流の経営に備わる良さも尊重する。年功序列や65歳までの長期雇用を採用し、今年60周年を迎えた長い業歴の中で一度もリストラしたことがない。会社の「継続」を第一に考える大田社長にとって、先代から受け継ぐ企業文化と人材は“守るべきもの”なのだ。

8月には、福島県社会人サッカーリーグに所属する「いわきFC」とパートナー契約を結んだ。今年、初出場した天皇杯全国大会でJ1所属チームを破って3回戦に進出するなど、独自の選手育成と戦術で成長する注目チームへのサポートは、いわき工場で働く社員たちに大きな勇気を与えるだろう。
「フィジカルトレーニングを重視し、試合の終盤になってもスタミナが落ちずに走り続ける選手たちには感動しますね。地元に応援できるチームがあることは凄いことです」(大田社長)

自己否定から客観性育む
後継者難を生きるヒント

また、学歴重視ではなく人物本位の採用方針を掲げる大田社長は、「客観性」の大切さを若者たちに解く。
「人生は『マラソン』。私自身も五里霧中で頑張ってきた中で自分のペースを見つけることができました。その場、その時代に適した行動をとるためには客観的に自分を見る目が必要です」

 青天の霹靂で経営を任された時、大田社長は先ず自己を否定した。エゴが塊になれば人間は動けず、一度「0」にしなければ本当の自分はわからない――。そして、岐路に立った時は歴史や哲学に学んだ。多い時には2日に1冊のペースで本を読み漁ったという大田社長が、自身の経営哲学に最も影響を与えた一冊に挙げるのは『リーダーの易経』(竹村亞希子著)である。
「潮流の“兆し”を読み解く『易経』は帝王学を記した書物。自分の位置を客観的に見ながら照らし合わせることや、『陰』と『陽』の概念などは経営にも活用できます。世の中がプラスばかりで成り立つことはあり得ません。ポジティブもネガティブも両方必要です。難しい決断を迫られた時、『陰』と『陽』のバランスを取って中庸にする『中する』という考え方から最適な答えを導き出せたこともあります」(大田社長)

そして今、大田社長が最も危惧していることは、日本の企業が直面している未曽有の後継者難である。103万人(厚生労働省「人口動態統計」)という、2013年の出生数は明治18年と同じ水準。人口減少が止まらない中で会社と社員を守り、事業を継続するために必要なことは何か――。

大田社長は一昨年、一冊の書籍をリリースした。タイトルは『直観力と哲学なき経営は淘汰される』。後継者難の厳しい時代を生き抜くためのヒントを記した同書は、愛する2人の息子に残す長い手紙でもある。
「経済や政治など、これからは想像もできない物凄い事が起こります。それでも、何とか生き抜いて欲しい。私の願いをストレートに書き記しました」(大田社長)
 大田社長は同書の英語版も製作し、リライト版を『直観力経営』として幻冬舎から出版。今まさに後継者難に直面している経営者はもちろん、大切なバトンを受け継ぐことに不安を抱く次代の経営者に向けてアドバイスとエールを送る。

【会社データ(問い合わせ先)】
本社=東京都渋谷区恵比寿1-3-1 朝日生命恵比寿ビル5F
☎=03-5447-5760
設立=1958年4月
資本金=1億1000万円
社員数=106名
売上高=40億円
事業内容=合成樹脂添加剤・潤滑油添加剤・各種化学品の製造販売
http://www.johoku-chemical.com

 

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