240326 東京冷機工業㈱/吉田 丈太朗 社長

2024年03月26日

AERA「Business Report」掲載

顧客の「省エネ」「収益」の両立とリサイクル
空調設備のTOーREIが取り組む「本気」

東京冷機工業㈱

吉田 丈太朗 社長

 長期的なスパンで好況が窺える空調設備業界。中でも設立70周年を2年後に控える東京冷機工業株式会社は、これまでいち早く技術革新を加速させながら業界をリードしてきた。

 同社は関東圏内に24の拠点と、30箇所のサービスステーションを置き「どこでも電話してから45分以内に駆けつけられる」体制を目指し、エリアを細分化。各地域での結びつきを強固に展開し、前年度は年商200億の大台を突破するなど、堅実に業績を伸ばしている。業務用エアコンのトップシェアを占めるダイキン工業㈱の特約店の中でも、同社はこの数年間で全国1位の仕入高をダントツでキープしているのだ。

空調機器導入に伴う様々なサービスもワンストップで対応

 「私たちは空調設備に関するサービスや技術を日々これ努力で育みながら、特化してきました。『人が財産』という根本的な考え方のもと、急激な拡大はせず「人」の成長と共に少しずつ徐々にここまで来られました。それは社員が皆、真面目な気質であることが大きくて、社員たちは必ず目標設定を上回るアクションを起こそうと考えてくれる。そのベースとなる意識が強力です」

 と話すのは、吉田丈太朗社長だ。同社の強みの一つに、空調設備の熱源である電気とガスの両方を得意とする点が挙げられる。特にガスを取り扱える企業は業界でも少ない中、同社は東京ガス㈱が管轄する空調メンテナンス業務の認定資格をクリアして久しい。顧客の環境・インフラに合わせた最適提案と、設計・施工からメンテナンスまでをワンストップで対応できる体制は、独立系の企業としても稀な存在だ。これらは顧客が求める高度なニーズや、時代の変化に応えて行こうとする同社の社風が生んだ成果の蓄積といえる。

「お客様からの『ありがとう』をもらえることが社員のモチベーションに直結していますよね。私たちは選ばれる存在でなくてはならない。そのためには、常にどう動くべきか、という意識が深く根づいています」
 と吉田社長が話すように、中間業者を介さない直接取引がほとんどを占める同社には、顧客からの感謝の言葉が直に届く。現場の最前線に立つ「人」と本部の連携によって、顧客と共に創り上げた信頼関係こそが同社の実力を底上げしているのだ。

「機械には『生涯価値』があり、生まれてから廃棄されるまでのラインで、私たちは適切なメンテナンスの力を発揮します。同じように社員も長期的に見て、成長しながらあらゆることに挑戦して、生涯価値を発揮してもらいたい」(吉田社長)

45分圏内に各拠点を配置し、「最寄り化」に注力

研修施設の「進化系」
熱意には熱意で応えよ

 かねてから「体験型」の大型研修施設を川口市に置くなど、技術力の育成に注力していた同社だが、2022年8月には上中里に『TO-REI成長支援センター』を新たに開設。5階建ての建物に研修室・実習室、ショールーム、ライブ配信スタジオやイベント会場などが一堂に集結した「進化系」の研修施設として、業界でも類を見ない複合機能を備える。
「技術や知識を学ぶだけの建物にしたくないという思いを『成長支援』という名称に込めています」
 と吉田社長が話すように、TO-REI成長支援センターは高い技術力の育成を軸にしながら「人と人が触れ合う場となること」に重点を置いているのが特徴だ。

 最大時142人収容のセミナー室をはじめ、実習フロアではリアルを伴う実機を使った体験学習ができる環境を揃え、社内に限らず顧客や関連商社、ビル管理会社などを対象に提供している。

 展示コーナーでは、普段は私たちの目には触れることのない配管やダクトなど空調システムの「見える化」が図られている。機器の仕組みが直に理解できて、発見も多いだろう。 各メーカーの注目商品や部品などが展示された一角は、空調設備機器の最新技術展といった趣だ。

 最上階はワンフロアを割いた多目的イベントスペースとなっており、オープンキッチンを完備。顧客や、業界関係者が一堂に会するイベント会場としての役割も担う。

「『教育とは感化しあうこと』と捉えて、人と人がここに集まって触れ合いを行い、講師も社員もお客様を通して『人』を学んでいく場となることが理想です。熱意には熱意で応えよ、と私はよく言うのですが、まず私たち自身が熱を持っていないと、何も伝わらない。その『熱』が人をわくわくさせるのかなと感じています。『ここに来るとこんな人に会える』そんな気持ちを育みたい」
 と吉田社長は話す。

 特筆すべきは、同施設が災害発生時の帰宅困難者を対象にした民間一次滞在施設でもあることだ。停電時でも使える電力をはじめ防災備蓄品を常備し、シャワー室も備えて、災害時の地域のために貢献する。こういった取り組みも含めTO-REI成長支援センターは、同社のさまざまな「思い」が一つに集約された施設といえるだろう。

 また、建物には高効率設備や太陽光発電を採用し、環境省が推奨する「ZEB Ready」(※)認証を取得。従来の標準的なビルと比べ50%以上の燃料費を削減した大幅な省エネを実現している。同社はZEBプランナーとしても省エネと環境負荷低減を目指し、顧客へ設備改修などの提案を進め、脱炭素社会の実現を支援しているのだ。

 
業界をリードして
取り組むべきこと

 同社は2018年より空調機器のリサイクルをスタート。最初は思いつきだったという吉田社長は、当時のいきさつをこのように話す。 

機器のリサイクル徹底により、資源循環とCO2削減を推進。

「現代の空調機械は20年前のものと比べると、使用エネルギーが約半分にまで節減できます。私たちはそうした古い空調機器の入れ替えを推進してきました。入れ替えるわけですから当然、排出するものが出てきます。多くが業務用なので、室外機などは結構な大きさになります。それを年間で4千台以上撤去しています。大変な物量になりますが、それまではこれら全てを産業廃棄物として焼却してきたわけですよね。果たしてこれでいいのだろうか?さすがにこのままではよくないだろうと」

 リサイクルにおける分別の徹底は、現場において相当な労力を要する。拠点の数が多くなるほど、運搬の負担も大きい。手間のかかる工程が多く、収益が伴わないことから、業界でも真っ向から取り組む企業がほとんどないのが実情だ。取り組む上でも、各々のモチベーションにばらつきが生じる危惧は無視できない。

「会社としてこれを本気でやるんだということをトップが示すことが一番大事だと感じた。個々のレベルでその気持ちや考え方が浸透していかないと、継続していかない。家ではゴミを分別しているように、会社としても当たり前にそれをやる。皆がそのレベルまで行くにはどうしたらいいかというのを考えました」

サーキュラーパーク九州㈱主催「第1回CPQサミット」(2/28)にて
回収の仕組みとマネジメントについて登壇する吉田社長(右)と
㈱ナカダイホールディングス中台澄之代表(左)

 と話す吉田社長は、リサイクルを担う同社の協力会社である㈱ナカダイの現場を自ら見学させてもらい、大きく心が動いたという。

「驚くべきは、回収したエアコンには99㌫以上、捨てるところがありませんでした。そしてこれらを再利用させるために全てを手作業で丁寧に解体し、分別していました。近代的設備がありながら、こればかりは人の手でなくてはできない工程であることを目のあたりにしました」

 理屈ではなく、この状況を全社員が共有すべきと感じた吉田社長は、役員はもちろん、現場に直接かかわらない事務系の社員にまで見学をさせてもらったという。5年を経た今、会社のマインドとしてリサイクルに対する意識がすっかり定着してきた手応えを吉田社長は実感している。

「会社としてカーボンニュートラルに本気で取り組んでいるのも、私たちの業界はフロンガスを扱うので、当たり前のこととして関心を示さざるを得ない。採算が合わなくても、自分たちの生活環境や未来を考えたら、少しでもやらないと。私たちはそういう意味での社会貢献をやっていかないと、この先も生き残れないのではないかと考えています」
 と吉田社長は話す。

「現状維持は退化」
常に新しいことを

 昨年はロックバンド、ザ・マスミサイルのリーダー高木芳基氏とのコラボによるTO-REI×ザ・〼ミサイル名義の『あなたの笑顔に用がある』という楽曲が生まれた。当初は社歌を作ろうと吉田社長が草案を挙げ、高木氏が具現化したものだ。同社のウェブサイトで見ることができるビデオクリップは全編、TO-REI成長支援センターで撮影されている。

 また、吉田社長は、SNSでコーチングの動画コンテンツがバズっている山宮健太朗氏の発言に共鳴するものを感じ、直に連絡したところ意気投合。先頃、同社の研修に講師として招いたばかりだという。

「私が普段、思っていたようなことを彼が的確に言語化していたんです。現在29歳の彼が喋る研修なんて、イメージがつかないでしょう?ちょっと尖がった部分を持った方で、届くものを感じたんですよね」
 このように柔軟な発想で次々と工夫を凝らしながら、新しいことへチャレンジしていこうとする吉田社長の話から、同社のビジョンや、未来への方向性が見えてくる。

「無意識に現状を維持しようとする人が大多数で、しかもその力は強い。一方、現状には満足しておらず、何らかを変えてその先を目指そうとする人がいる。どちらと言えば後者の方が持つ力が強い。モチベーションとはそういう力のこと。現状維持はキープではなく、どんどん遅れていくんですよね。良い部分は守りつつ、常に新しいことにチャレンジしていかないと、社会的に存在価値のない会社になってしまう」(吉田社長)

 この先の設立70周年、そしてその後の100周年を担っていくだろう若年層に向けて、吉田社長は本音でエールを送る。

「自分の時間は大切です。しかし自分のライフスタイルだけを大事にしている限り、会社は維持すら厳しくなるでしょう。やる時はやっておいた方がいいよっていうのが私からのメッセージですね。失敗してもいつか全部、自分の糧になる。何一つマイナスはありません。仕事も自分時間も、両方頑張れと言いたい。その方がこの先の人生、絶対に楽しくなるはずです」

東京冷機工業株式会社
本社=東京都文京区本駒込6-24-5
日暮里オフィス=東京都荒川区西日暮里2-26-2 日暮里UCビル7・8階
☎=03―3943―5551
設立=1956年3月
資本金=3億円
従業員数=600名
売上高=220億円(23年度見込)
事業内容=空調設備・冷熱設備・給排水衛生設備・省エネシステムの設計、施工、メンテナンス
https://www.to-rei.jp/

 

AERA「Business Report」東京冷機工業㈱/吉田 丈太朗 社長

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