230810 京都美術工芸大学/竹脇 出 学長

2023年08月10日

週刊文春「学長インタビュー」掲載

実践力なき学歴より実力の証たる資格を
美大系初の建築学部が在学中一級建築士育成へ

京都美術工芸大学

竹脇出(いずる)学長

「学生建築士」を輩出する
Wスクールシステム

 開学10年あまりの新しい美術系大学が、在学中に建築士資格を取得できる独自のシステムで受験生の人気を集めている。
 京都美術工芸大学が開学したのは2012年。在学中の二級建築士合格者など、1991年の開校以来長年にわたって建築のエキスパートを数多く輩出してきた京都建築大学校と、通商産業省(当時)や京都府からの要請を受けて95年に開校し、本格的な匠の技の継承者を育成してきた京都伝統工芸大学校の実学教育の実績を背景に誕生した。

「KASD(キャスディ)」の愛称で知られる京都建築大学校は、放送大学との連携で大学卒業資格が得られる上、工業高校等出身者のアドバンテージを生かした2年次での二級建築士試験合格や、文系、商業高校、単位制高校などさまざまなバックグラウンドを持つ学生の一級建築士試験の在学中合格で今、建設業界や教育関係者から最も注目されている専門学校だ。特に工業高校関係者からは「高校での専門教育がストレートに生かせる」「工業高校がかつての輝きを取り戻す絶好のチャンスになるのでは」などと、同校への問い合わせが相次いでいるという。

 建築士は、扱うことのできる建物の規模によって一級、二級、木造の3つに分類されるが、一級と二級は大学や専門学校を卒業後にしか受験できない(二級は実務経験による受験資格もあり、2020年からは工業高校等の卒業生も二級が受験できるようになった)。そこで、同大の学生は入学時にグループ校のKASDにも同時入学し、必要科目を修めて2年間で同校を卒業することで、大学3年次での受験を可能にしている。

 一級建築士や二級建築士資格は、大学卒業後に建設業界で働きながら多額の授業料を払って資格学校に通い、三十歳前後で取得するのが一般的だが、このシステムでは二十歳前後での合格が可能になる。

「仕事をしながら資格を取得するのは至難の業。大学在学中に取得または合格する価値は計り知れません。それができるのは本学だけですから、『学生建築士』を目指す意欲あふれる若者が全国から集まってきます」
 と竹脇出(いずる)学長は胸を張る。少子化で私立大学の半数近くが定員割れする中、2018年には建築学科だけで50人から150人への大幅な定員増が文部科学省から認可されるなど、キャンパスは活気に満ちている。

建築と美術工芸との連携が特色
京都の立地も活用

京都東山キャンパス

 2022年には美術系大学としては日本初となる建築学部を開設。23年度からは芸術学部との二学部体制に移行した上で両学部間での独自の連携体制を築き、高度な建築の知識と感性豊かなデザインセンスを同時に身につけた人材の育成に取り組んでいる。

 「これは20世紀初頭にドイツで設立され、その後世界のモダニズム建築の先駆けとなった造形学校である『バウハウス』の考え方に共通するものがあります」
 と竹脇学長。「日本における建築教育は、建築デザインと構造・環境などの建築工学とが一体となった独自の教育が行われている」と分析する竹脇学長は、「従来の工学部/建築学科はあくまで工学(エンジニアリング)の中に位置づけられていたため、一貫した建築家・建築士教育にとっては不十分であった」と、工学部ではなく芸術系の建築学部とした理由について解説する。

 さらに学長としての今後の取り組みについては「建築学部と芸術学部における美術工芸との連携を本学の強みとして、歴史文化都市であり文化庁移転もなされた京都において、その立地を最大限生かした教育研究に挑戦していきたい」と、熱い意気込みを語る。建築士資格取得に向けた支援体制も一層充実させたい構えだ。

在学中の一級建築士
合格を目指して

 難関とされる日本の国家資格には、医師、公認会計士、弁護士などがあるが、建築の世界には一級建築士がある。建築士は医師や弁護士などと同様、有資格者しか携わることができない「業務独占資格」。就職や転職に有利になるだけでなく、独立という選択肢もあり、将来の可能性が広がる。

 しかし、日本の建築界では、2000年代半ばに起こった耐震偽装問題への対処から、一級建築士の受験資格としての実務要件の確認の厳格化が行われた。その結果、一級建築士の受験者数が漸減し、一級建築士の高齢化が大きな問題となっていた。これを受けて、18年12月に建築士法が改正され、一級建築士の実務要件が受験資格から試験合格後の登録制へ移行することとなった。これに伴い、学部卒業後すぐに一級建築士試験が受験できるようになり、この制度は20年から実施されている。

 これをチャンスととらえた同大では、二級建築士資格の取得ですでに実績があるKASDとのWスクールに加え、学部と大学院に連続性を持たせたカリキュラムを用意。大学院とともに学部在学中での一級建築士の受験の道を開き、学部生を含め、すでに複数の学科試験合格者を出している。

 竹脇学長は京都大学大学院修了後、同建築学科において40年以上建築学の教育・研究に従事し、2019年から21年にかけて日本建築学会会長(第56代)を務め、前述の建築士法の改正やその後の対応において大きな役割を果たしてきた。

「大学に入るかなり前から受験準備を始める医学部とは違い、建築士を目指すのは大学に入ってからでも決して遅くはありません。本学には、文系出身者でも在学中に無理なく資格を取得できる環境があります」。
 当時、学会の立場で建築士の高齢化問題に取り組んだ竹脇学長は、今も建築士志願者の底辺拡大に力を注いでいる。

建設業界や伝統工芸界に
有為な人材を

「本学には多くの学生が在学中の資格取得を目標に入学します。そして、二級建築士やインテリアプランナーなどの資格を持って卒業していきます。本学の歴史は浅く、私が長年にわたって教育や研究に携わった大学に比べて知名度は低いかもしれません。しかし、就職活動において、大手人気ハウスメーカーの設計職などに次々と内定していく現実を目の当たりにすると、実践力を伴わない学歴よりも確かな実力の証としての資格のほうが役立つ場合があることを実感します」

 建築士試験に臨む学生たちは、春休みや夏休みもほぼ毎日、朝から晩まで試験対策勉強に打ち込むという。明確な目的意識を持って熱心に勉学に取り組む学生の姿は、長年にわたる竹脇学長の教育観を一変させたと言ってもいいだろう。
 同大が建設業界だけでなく、伝統工芸業界やデザイン業界に有為な人材を送り込み、それぞれの業界にとってなくてはならない存在になることが竹脇学長の最大の目標だ。

■学長プロフィール
竹脇 出(たけわき・いずる)
京都大学大学院修了。工学博士。
京都大学教授等を経て、2023年より京都美術工芸大学学長に。専門は建築構造。
2019~2021年日本建築学会会長(第56代)。

【大学データ】
所在地=京都府京都市東山区川端七条上ル
☎=075-525-1515
学生数=1030人
学部=建築学部、芸術学部
https://www.kyobi.ac.jp

 

 『学長インタビュー』は全国の注目すべき大学や各種専門学校を独自に取材し、トップインタビュー形式でご紹介しています。

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